キミは聞こえる

 *

 友香のこととなるとなんでもしてやりたいし、彼女の言うことならなんでも聞きたいと思うのが泉である。

 生来、面倒は極力避けたいタイプだ。否、全力で拒否るやる気のない女だ。

 しかし友香は別だ。

 その証拠がいまのこの怪しさ抜群の格好なわけだけれども、お節介とわかっていても友香の心を病ませる"翔君"が気になって仕方ない泉は友香と別れてからエレベーターで帰った振りを装い、小児病棟のトイレに忍び込んだ。

 廊下を歩いている途中、ある病室の前に『上川翔吾』というプレートが付いているのを見つけた。
 さきほどナースステーションで友香と似たり寄ったりの渋い表情をしていた看護士が、これまた先ほどとまったく同じ―――むしろそれ以上に深刻そうな顔で入って行ったから、おそらく翔君とはその上川翔吾で間違いないと思う。

 個室ではなく、数人が一室に詰め込まれた一般病室だったけれど、幸い翔吾の部屋には彼ただ一人のネームプレートしか見つけられなかった。

(苦労がはぶけてラッキーなことだ)

 顔を見れないから特定するのが難しいけれど、このトイレから翔吾の部屋までたいした距離はない。意識すれば、"声"は届く。

 一つ深呼吸をして、集中力を高める。

 ドアの隙間から見えた少年の顔を思い出す。看護士の伸ばしたスプーンから顔を背け、窓の外をぼんやりと眺めていた。


 あれ、と泉は思った。