キミは聞こえる


 この口調は誰に対しても使っている泉の"普段"で、桐野だけにというわけじゃない。
 泉の話し方で、傷つけたと思うのならクラス全員が泉の気を悪くさせたということになる。

 ……被害妄想か?

「なーんだ。俺の思い過ごしか」

 よかったー、と笑いながら桐野は両腕を思い切り広げて伸びをした。
 今までため込んでいたうやむやが晴れて心底スッキリしたという顔で。

 …なんなんだこの男。

 こっちはまだ疑問が残ってもやもやしているというのに。
 すると泉の桐野に対する恨めしさに気づいたのか、桐野はまた小動物のように目をくりくりとさせて、

「どうしたの代谷さん」

 と呑気に尋ねてきた。

 かちんとした。

 あんたの喋り方のほうがよっぽど苛々すると喉元まで来ていた言葉をなんとか飲み込んだ。

 怒り混じりにはぁと、わざとらしく深くため息をついてやりたいのを必死にこらえて、泉は訊いた。

「どうして傷つけたって思った―――」
「ほらまたー!」

 ぎょっとした。いきなりどうした。

 桐野は泉を遮り、それだよそれ、と指をさす。
 わけがわからず泉は思わず一歩身を引いた。

「な、なにが……?」

 どきまぎしながら訊くと、桐野は急に真面目な顔になり、

「……代谷さんさ、もっと明るく喋りなよ。だから俺みたいな誤解を作るんだよ? 女の子ってさぁ、もっとこう…だよね~とか、うっそ~とか、なんていうのかな、語尾が上がる感じ? 可愛げがあるっていうか。代谷さんて必ず最後は低いよね」

 目をぱちぱちとさせる泉を置いて、何様気取りかで解説を続ける桐野。

 するとそこで、男はぽんと手を打った。「―――そうだ!」

「今度は、なに……」

 嫌な予感がする。

「わかったよ。代谷さんは、男っぽいんだよ! そうそう」

 ひとり納得して頷く桐野の傍らを泉は通り過ぎた。

 なにを言ってるのだこいつは。
 訊いた私がバカだった。