「なにか、いいことでもあったの?」
(!?)

 ぞわっと全身が粟を噴いた。この声、この調子、なぜまた、と泉は思った。足を止め、目を細める。
 鈴分け橋の袂(たもと)、街灯の下に、一人の影があった。
 
「関係ないでしょ」

 目を合わせるどころか口を利くのでさえ嫌悪を感じる。
 せっかくの浮かれモードが一気にテンション急降下。落ち着くどころか気分が下がりすぎて苛立たしささえ覚える。

「ほんと、代谷さんて冷たいよね、俺に対してはとくに。まぁ、たしかに? 年中お祭り男みたいな桐野のほうが近くにいりゃあ楽しいってのは事実かも知れないけど、それだけでしょ。あいつは特定の誰かを選ばない。みんな友達だから。代谷さんと仲良くするのも、この間、おじいさんが倒れたとき助けたのも、全部きみが友達だから。クラスメイトだから。それだけだよ。罪な男だよね」

 橋に体重を預けていた設楽はよっと腰を橋から離すとこちらを向いた。自然、身体が強ばる。