キミは聞こえる

 そのへん……。なかなか言ってくれるではないか君。
 ―――けれど、うん、まぁ………名前を公開されずに済むならそれでも我慢しよう。

 格好がつかないなどあたかも佳乃のことを思っているかのような発言だが、正直な話、佳乃の体面などまったくもってどうでもいい。問題は、この少女が自分であると公表されないようにすること、である。
 そのためなら仮にそのへんのちょっと決めてるナルシスト寄りの少女になろうとて我慢できる。我慢するんだ、泉!

「―――ふいー、あっちぃ」

 げ、と思った。
 出た。ヤツが。

 思った通り、開いていたドアから入ってきたのはつい先ほどまでグラウンドを駆け回っていた桐野だった。シャツも靴下も泥だらけだ。
 熱が引かないのかいまだほんのりと頬が赤い。
 泉と佳乃に気づいた桐野は驚いたように目をくりっとさせた。

「あれ。代谷と栗原じゃん。めずらしいな、二人が放課後残ってるなんて。あ、部活?」
「そ、そうだよ」
「あ、もしかしてこれってさっき代谷が窓に座ってたヤツ? へーなかなかかっこいいじゃん。ポニーテール、下ろしちったの?」
「首筋が寒いから。……やっぱり見えてたんだ」

 目が合ったのはどうやら気のせいではなかったようだ。

「はじめは気のせいかなって思ったけどな。ずっと動かないんで目細めて見てみたら、代谷だった」

 さすがは野生児。
 ちなみにここは三階である。
 田舎者は視力がいいらしいと聞いていたが事実だったようである。

(いや、ちがうな)

 田舎者でなく、もはややつは猿だな。うん。