空中を漂う少女がため息をついた。
千種が言っていることの意味は、全く通じていない。
「………」
そもそも、何故千種は少女の相手をしているのか。
理由もなく流されている自分を発見して、苛立つ。
これは少女が悪いのだ。
千種は悪くない。
少女が勝手に話しかけてきて、千種は仕方なく相手をしているだけ。
だから、理由なんてあるはずがない。
(べつに、この娘の話に付き合う必要なんて、ないよね?)
決めた。これ以上少女に付き合ってはいられない。
人付き合いにも、相性があるのだ。
たまたま、千種と少女の相性が悪かっただけ。
(僕は悪くない)
この時、千種は気付いていなかった。
こうして会話を切るのに理由が必要なほど、千種と少女の縁が深いことに。
話していることが、あまりにも当たり前に感じられることに。
少年は、いきなり窓を閉じた。
突然のことに驚き、しばらくは怒りがさめなかった。
(なんなの、あの態度!)
女神に対して、あのような態度を取るものなど、これまでいなかった。
(…あら?そういえば…)
少年はフローラが女神であることを知らないのだ。
『それにしては、驚いてなかったわね…』
今度は声に出して呟いてみる。
その声に答えるものはない。
アンシャンテ、祭りの夜は更ける。
果たして、少年は気付いていたのだろうか。
己の出会った少女が空中に浮かんでいた、その不思議に。
たった一夜の出会いが、静かに、そして確かに運命の扉を開いたことを。
気付いて、いたのだろうか…。
