それはそれとして、俺は壁やら床やら天井やらをライトで照らしていたわけだが――部屋のど真ん中に一つだけベッドが置いてあることに気がついた。それも、床に固定されている。
「?」
 さらにベッドの真上をライトで照らすと、そこにはバカでかい照明。いくつかのライトを組み合わせて、パラボラ状にしてある。
 ドラマなんかで見たことがある。こんなベッドとライトが設置されてる部屋は、病院で一箇所しかない。
「参ノ剣……」
 まるで呪文の詠唱のようなあかりの声が、部屋の中に響き渡る。
「ここ……オペ室だな……」
「テツヲ――ええっ?!」
 俺のつぶやきが聞こえたのだろう。あかりが驚いてこちらを振り返る。
「だって、このベッドとライト。それによく見ると、心電図のモニターとか置きっぱなしになってるし」
「マ、マジ……?!」
「マジだって。って、よく見るとこの部屋の壁……」
 壁にライトを当てると、赤く浮かび上がる部分がある。よくよく見てみるとそれは……
「これ……血の跡じゃねえか?」
 壁いっぱい。壁という壁、床という床、しまいにゃ天井にまで。いたるところに、大量の血をぶちまけたような跡がべっとりとこびりついていた。
「これは……」
「マジありえんてぃー……」
 一言そう言って、あかりはその場にぶっ倒れた。
「あ、おい! しっかりしろ! こら! お前が気絶しちまったら、こっから出られねえだろうが! おいってば! 俺だってこんな不気味な部屋、さっさと出てえんだよ! 悪かった! 俺が悪かったって! 頼む! こんなとこで一人にしないでくれー!!」
 助け起こして声を張り上げるが、あかりは白目むいたまま、まるで動く気配がない。
「どうかしたか?」
 ドアの向こうから、ディルクの声がする。
「あかりが気絶しちまった……」
 ため息をつくのが、気配で知れた。
「仕方ないな。ありったけの弾薬を使って、ドアを破壊したらどうだ?」
「それがよ……なんか変なんだ。このドア」
「変とは?」
「なんか、ドアの表面がわけのわからん板で補強されてるんだ。んで、弾が効かねえ。よく見りゃさっき撃ったとこも、全然壊れてねえ」
「弾が効かない? 5.56mmのフルメタルジャケットだろ?」
「ああ。けど、通じねえんだ。若干へこむ程度だ。こんなの見たことねえ」