「話す必要などありませんよ、旦那様」
 ガラガラと酒瓶の山を崩しながら、ついさっき吹っ飛ばしたバトラーが姿を現した。
「旦那様の身は、このわたくしめがお守りいたします。お下がり下さい」
 言われて、かさかさ部屋の隅へ引っ込むじいさん。ゴキブリか。
「見た目以上にタフな野郎だな。小間使いのくせに」
「何度も同じことを言わせないで下さい。わたくしは誇り高き、闘うバトラーです」
「じいさんの口を割らせるためには、まずてめえをぶっ飛ばす必要がありそうだな」
 俺は右手にP90、左手にP226を構える。
「いきます」
 一言言って跳躍。それも一気に天井まで。さらに天井を蹴り、一直線にこっちへ突っ込んでくる。
「ぬおっ!」
 すんでのところでかわす。ナイフで服の胸元を切られた。
「やろっ!」
 床に着地したバトラーに、回し蹴りをかます。だが蹴りが届く前に、バトラーは再びジャンプ。今度は三角飛びの要領で壁を蹴り、天井まで到達する。
「ちょこまかすんな!」
 P90を発砲。だが着弾する前に、またしても天井を蹴って横へ回避。それから再び壁を蹴り、ナイフを構えて俺へと襲いかかる。
「あぶねっ!」
 P90を盾代わりにして、刃から身を守る。黒光りする銃が、真っ二つに断ち切られた。
「スーパーボールか?!」
 思いっきり人間の動きじゃねえ。バトラーは動きにくいタキシード姿で、壁、床、天井をフル活用し、部屋の中を縦横無尽に飛び回る。
「かつて、ジャパニーズマンガに出ていた技を参考に、自分なりに習得したのですよ。あなたには、わたくしの姿を捕らえることはできません」
「る○剣……?」
 あかりがなにか言ったような気がしたが、リアクション取ってる余裕はねえ。俺はぶっ壊されたP90を捨て、もう一丁のP226を右手に握る。
「飛び道具を使っても無意味です!」
 一瞬バトラーの姿がかき消えたと思ったら、背中から風切り音。身をよじってかわしたが、背中を浅く切られた。
「くっ……! んのやろ!!」
 飛び去るバトラーに向けて、3発発砲。だが、壁を利用して直角に横に軌道を変えられ、弾はかすりもしなかった。
「無駄だと言っているのです」
「あー、ったく! めんどくせえ野郎だな!」
 だんだんイライラしてきた。こういう、チマチマした闘い方は嫌いだ。