「ああ、そうだな。わりい。全身粉砕骨折の、砕き殺しコースを忘れてた」
「そんなもん思い出さんでくれ!」
「心配すんな。人体には206本も骨があるんだ。全部砕くには時間がかかる」
「なお嫌じゃ!」
「骨ジャンルだと、骨髄全抜き殺しコースってのもあるぞ」
「なんでそんなに、殺し方にレパートリーがあるんじゃ?!」
 じいさん、すでに泣いている。
「安心しろ。麻酔、消毒なしで、全身に一気に20本くれえ針突き刺すから、割と短時間で逝ける」
「なにが安心なんじゃ?!」
「死に方はあとで決めるとして」
 ディルクが1歩前へ出る。
「ミスタ・ストークス。さっきのアレは『マン・ハンティング』だな?」
「……」
 じいさん、目を伏せて顔を横へそむける。
「図星のようだな」
「くっ……」
「ま、良いさ。話す気がねえなら、とりあえずケツの穴ほじくって――」
 立たせようと、じいさんに手を伸ばしたその時、
 
ひゅおっ!
 
 俺の目の前を、ナイフが空を切る。すんでのところで、手を引っ込めてかわした。
「あっぶねえな。なにしやがる」
「それはこちらの台詞です」
 今までずっと黙ってやり取りを眺めていたバトラーが、両手にグルカナイフを2本構えて立っている。
「どんなときでも主を守るが、バトラーたる我が務め。旦那様には、指一本触れさせません」
「我が務めって……。普通バトラーは、グルカナイフなんか振り回さねえだろ」
「わたくしは、闘うバトラーでございます故」
「まさか『battler』と『butler』をかけてんのか……?」
言っとくが、英語の発音にするとこの2つは全然違う。
「ささいなことでございます」
「全然ささいじゃねえよ。大問題だ。世のステューデンツが間違えて覚えたらどうする」
 なんか話がそれてきた気がする。
「とにかく、俺たちゃこのじいさんに用があるんだ。ただの小間使いのお前に用はねえ」
「聞き捨てなりませんね」
 さらにずいっと前に出るバトラー。
「わたくしは小間使いではございません。由緒あるストークス家に代々仕える、バトラーの一族。そこらの雑用係などと一緒にされては困ります」
「似たようなもんだろが。俺は今機嫌がわりいんだ。あんまイライラさせんな」