とりあえず、いつまでも床に座りこんでるわけにもいかねえわけで、あかりを抱えて立ち上がる。
 めんどくせえから床に放り出しとこうかとも思ったが、あとで気がついたときになに言われるかわかんねえから、手術台に乗せとくことにした。
「……こんなとこに寝かせとくと、まるで死体みてえだな……」
 これはこれで、あとで文句を言われそうだった。
 ディルクが戻ってくるまで、部屋の中を探索することにした。少しは自力で脱出する方法くらい、探しとこうと思ったからだ。
 部屋の中は見事に荒れ放題。そして血の跡だらけだった。一体何人分の血液をぶちまければ、こんな状態になるんだか。もちろん俺だって、これがゴーストやらの仕業だとは思ってねえ。当然、人間の仕業だろう。おそらくギャングどもの。
 壁の一画に近づいて、間近で血の跡を見てみる。見た目は本物の血の跡そっくりだが――まるで血の匂いがしない。戦場でよく鼻にする、錆びた鉄と腐った臓物の混じり合った、あの独特の匂い。
 指でこすってみる。カサカサとはがれ落ちる。どうやら、映画の撮影なんかで使う血のりのようだった。よくできてはいるが。
「ま。だいたい想像はしてたけどよ」
 冷静になってみれば、子供だましもいいとこだった。今度は、そこらに転がっている機材やらストレッチャーやらを調べてみる。
 実に『それらしく』荒らしてはあるが、逆を言えば『それらし過ぎる』荒れ方だった。それこそ、ホラー映画やバイオ○ザードのような。
 横にひっくり返っていたストレッチャーを見てみる。裏側にへこみ発見。思いっきり人の足型がついている。要するに、蹴飛ばしてひっくり返したってことだ。
「もうちょいうまくやれなかったもんかね」
 口にしても意味もねえのに、独り言。ま、独り言ってのは、独りでに勝手に出てきちまうから独り言ってんだがな。
 一通り部屋の中を見て回ったが、他に出口はなさそうだった。オペ室ってのはそういうもんなのかも知れねえ。俺は医者じゃねえからわかんねえが。
 諦めて大人しくディルクを待とうと、適当なとこに腰かけようとしたとき、
「ん?」