『insurance?』
 胸元の開いた派手なコスチューム。年は20代後半くらいだろう。髪はブロンド。女のディーラーが俺に聞いてくる。
 ディーラーの手元には2枚のカード。うち1枚はめくられていて、スペードのエース。つまり、伏せられているもう1枚の手札でブラックジャックになる可能性があるんで、保険をかけるかと聞いてきてるってわけだ。
 プレイヤーは俺だけ。つい10分前まで俺も含めて5人いたんだが、負けまくってやめちまった。今はテーブルを取り囲むように、俺とディーラーのタイマンを見物してやがる。
 今夜は大勝ちしてる。ま、勝ち続ける必要があるんだが。だが、あんま派手なゲームやってると、こうやって野次馬どもが集まってくる。さっきまでプレイしてた4人も含めて、今は15人くらいが見物してやがる。
 俺はディーラーに対して、首を横に振る。インシュランスってのは確率と期待値から言って、プレイヤーにはなんのメリットもねえ。
 とは言え、俺の手札はハートのクイーンとクラブの5。合計15。お世辞にも良い手とは言えねえわけだが……
 ディーラーが伏せていたカードを確認。テーブルにそういう機能があるのだ。ディーラーはカードをオープンにしない。やはりブラックジャックにはならなかった。
 俺は右手の人指し指で、テーブルを2回トントンと叩く。ストラテジーに従えばここはヒットになる。ディーラーから配られたカードはダイヤのエース。11扱いにすると26でバストしちまうから、ここは当然1扱いだ。合計16。ますますもって最悪になった。
 野次馬どもの間にも、落胆の空気が流れる。自分たちが負けた分を、俺に勝って取り戻してもらいたかったんだろう。もちろん、それで自分たちの懐が温かくなるわけじゃねえが、気分的にそうなってもらいてえって思うのが人情ってもんだ。
 普通に考えりゃ、勝つ見込みはほとんどねえ。次にヒットしたカードが6以上なら、バストなんだからな。5以下のカードじゃなきゃならねえってことは、単純計算で勝率は50%を切る。一番良いのはサレンダーだが、すでに1枚ヒットしてるからそれはできねえ。ここはディーラーのバストに期待してスタンド……
 って考えたくなるのもわかるが、ストラテジー通りならここはヒットだ。さらに俺は、ここまでにめくられたカードを全て思い出す。そしてそれぞれのカードを3つのグループに分け、ある計算をする。