辺りが少しずつ賑やかになっても
母は別室で泣き続けた。

もう何時間泣いてるか分からない。

時折聞こえる、嗚咽に誰も帰ろうとしなかった。

すでに皆の疲労は膨大だろう。

疲労困憊。

気力で起きてるボクも、
意識が飛び飛びだった。


ボクがロビーで
眠気と戦っていると――


「あ……」

1台の車が見えた。
今の車、ひょっとしたら――


「おっちゃん?」

『え?』

ボクの一言に皆が目を覚ました。

「おっちゃんだ。
おっちゃんが来てくれた!!」


この当時、俺は
『おじさん』ではなく
『おっちゃん』と呼んでいた。


「おい、誰か
実依佳姉ちゃんを呼んで来い!
大至急だ!!」


みんなが一斉に騒ぎ立て出す。

あちこちに指示が飛び、
正お兄ちゃんの
病室まで知らせが飛ぶ。


「早くしろ!
他のみんなも集めるんだ!!」


親戚が更に連絡を回し、
気付けば、
病院にいた全員が集まっていた。


「お疲れ様です」

サングラスにぽっちゃりした体型。
腕は丸太の如く太く、
ガッシリした足を持つ。

みんなが待っていた救世主。
おっちゃんこと
『大嶋 幸人』だ。
(おおしまゆきと)


みんなヒシヒシと感じているのか
表情が堅い。


「あの……」
「話は聞いている。
担当の先生はどこだ?」

いつもの優しい顔じゃなかった。
その顔は怖いぐらい真剣だ。


「こ、こちらです」


看護婦さんも
ただならぬ気配に気圧されていた。