一瞬、何が起こったのかわからなかった。


微かな蝉の鳴き声と車のエンジン音が、やけに遠くから聞こえて来る。


お互いの唇を重ね合わせていた事に気付いたのは、虹ちゃんが唇を離した後の事だった。


「紫?」


彼は、放心状態のあたしを心配そうに見た。


「あ……」


我に返ったあたしの頬が、みるみるうちに熱を帯びていく。


「もしかして、初めて……?」


あたしは控えめに訊いた虹ちゃんから視線を逸らし、一呼吸置いてから小さく頷いた。