「茶番だ。俺がまさか死にかけているとは・・・、きっとこのまま俺は死んでしまうのだろう・・・・」そう俺は思った。

暗く重ったらしい影に捕まれて身動きがとれない感じだった。

俺は最後の力を振り絞って鳴いた。
「かあさん！慈月ぃ！」それで俺の体はまったく動かなくなってしまった。なのに、こうして俺はこうやって話している。

どうやら死後の世界ではないらしい。
周囲を見渡すと俺が倒れた場所だったし、勤めている会社の前だった。
一見何も変わりのないようだが、ただ体の自由は効かずとも、意識だけははっきりしていた。

死んだ感じはなかった。
もちろん俺は死んだつもりもないのだが・・・。

俺は二時間前にこの場に倒れた。
ちょうど太陽が真上にあった十一時半ごろだった。

俺は会社に出勤途中だった。
前日、徹夜して一度自宅にもどりシャワーを浴びて仮眠を二時間だけとっただけだった。
まともに家に帰れず、不眠不休で一週間が続いていた。

妻は夏休みでひとり娘と一緒に里帰りをしていた。
そっちのほうが気も楽だと妻に塩を蒔いたが、実際は仕事ばかりの俺に愛想をつくして出ていっていた。

そんな状態の俺はひとり寂しく倒れたってことだ。