(…怖いからだ、)

ふと気付いた頃には完全に距離と時間を置きすぎていて、またあの山茶花の下であの子が待っていてくれるのか。

それがこわい。

意気地なしの大人は毎日毎日、あの甘い花を忘れるようにがむしゃらに働き通した。

それが高じて、先輩や上司にも可愛がられた。


それなのに、私のなかは空っぽだ。

空っぽなの、赤鼻。

───満たせるのはきっと、あんただけなのに。

それなのに何故、私の足は山茶花に向かわない。


───きっと気付いてる。

私は。

畏れているのだ。

赤鼻と逢うことを。
赤鼻が居ない赤い花を見ることを。
枯れてしまった、憐れな山茶花を目の当たりにすることを。