「お姉さん、」
しかもお姉さん、ときたか。
どこまで図々しいんだ。
「もう泣かないの?」
訂正。
図々しいなどという言葉で片付かない。
「君には関係ない」
大人気ないとは思いつつ赤鼻から顔を逸らせば、真っ赤な山茶花の花が視界を埋める。
あぁ、なによ私、ダジャレじゃないんだから。
「お姉さん」
懐っこい声に、思わず返事を返しそうになった。
山茶花の、真ん中の黄色い部分だけ見つめて、そこに意識を集中させる。
蜜蜂がちらちらと顔を出したり出さなかったり。
あぁ、虫になりたい。
なにも考えないで、ただ生きることだけに一生を費やす生き物になりたい。
「それは蜜蜂に失礼だと思うな」
は?
「蜜蜂だって、悲しいとか楽しいとか辛いとか、いっぱいあるかもしれないじゃない」
体育座りをしたままの私の肩に、そっと重みが増す。
すぐ真横から聞こえる呼吸音が、まるで風みたいに甘い。
―――山茶花と同じ匂い。


