行き場のない憤りだとか悔しさだとか情けなさが全部水分となって流れ出ていく。


これで全部、嫌な思いも何もかも、なくなってくれたらいいのに。



(―――あぁ、辛いな)



もういいや。


いっぱいいっぱいだもの。


体裁なんか知るか。

声を上げて泣いてしまおう。



「ねぇ」


そう大きく息を吸った瞬間、耳元で響いた声に心臓が跳ねた。


凛とした、でも柔らかい。

匂い立つような気体を音にしたような、穏やかさ。

誘われるように俯いていた頭を上げる。

酷い顔してるだろうに、そんなこと気にする余裕もないまま。





「…、」


―――目に入ったのは、アンパンマンみたいな真っ赤な鼻先。

濡れた睫毛はまるでラクダみたいにぱちりと瞬いて、それに縁取られた宝石は暖かい黒に煌めく。

涙の膜も手伝って、ぼんやりと映るそれにまるで吸い込まれそうになった。


つい、息をするのを忘れる。