心が萎縮して、動けなかった。

 目の前に、ねずみの巨体が迫った。

大きく開けられた口の中が見えた。

血を吸ったような赤だ。

その中に、オレは呑まれて行くのか。

そのハズが、体が勝手に動いた。

横にすっと避けただけで、ねずみはオレのいなくなった場所に突進して行った。

「ちっ」

 オレが声を漏らしたので、驚いた。

 オレの声だけど、オレじゃない。

「なにやってんだ。黙って見てたら、人間なんてフィックス以下じゃないか」

 オレじゃない。オレじゃない。

 ねずみが向きを変えてきた。

 オレは諦めから、目を閉じようとした。けれど、目がいうことをきかない。