オレは『嫌なものを見た』って思いで鏡から目を逸らせた。
ああ、何でこんなナリに生まれたんだろう。
性格がよければいい。
そういう人は希少だろうし、オレは性格すら輝いてはいない。
人畜無害。
といえば多少聞こえはいいが、内向的で、言いたいことの九割九分九厘は言えないジメッとした性格だ。
ああ、鈴菜ちゃんにつりあうくらい、かっこよく生まれたかった。
それは望みすぎというものだろうか。
けれど、そういう美貌が、のどから両手が出て鷲づかみにしたいほど欲しい。
オレはトイレから出た。
下校する生徒がまばらになっている隙を、縫うように、出来るだけ目立たないように、帰る。
唇の血が流れ出さないように、唇をかみ締める。
保健室のキレイな先生に、オレなんかが手当てを頼むなんておこがましいから。
だから、誰にも怪我を悟られないように。
何事もなかったかのように。
校舎を出ると、濃く、雨の匂いがした。