自分に不満のないヤツは、手を洗いながら、こいつをチラリと覗き込む。

自分に過剰な自信を持っているヤツなんて、用なんかなくても、休み時間の度にここへ来て、自分の姿を映して楽しんでいる。

オレにはとても信じられないことだ。

自分の顔なんかわざわざ見たくもない。

だから顔なんて見なくてすむように、唇だけをに焦点を合わせる。

さっき手で血をぬぐったばかりなのに、血色の悪い唇からは、まだ血が出ている。

鈴菜ちゃんを抱き止めたとき、ショックで唇を噛んだんだろう。

彼女が怪我をしなくてすんだ代償。

名誉の負傷。

けれど。

と、恐る恐る、鏡の中の自分の顔を見た。

ろくでもないパーツが、また、これでもかというほどろくでもないように配置されている。

ゴリ、なんて呼ばれて、ゴリラに失礼だと我ながら思う。