そう言えば、この子、何か気になること言ったな。

そうだ、『ごめんね』だ。

何で オレは謝られてるんだろう。

「ねえ、ごめんねって」

訊こうとして、黙ってしまった。

一瞬、自分の声じゃなかった。
 
オレの声は魅力なんて微塵もない、くぐもった声のハズだ。

なのに、今響いたのは、ハスキーがかった甘い声。

「あー」

もう一度声を出してみる。

やっぱり、さっきの声。

「どうしたの?」

「いや、声がおかしい」

「あー」

女の子は大きな瞳を上に向ける。
 
「それは、いろいろと、ぐちゃぐちゃで。声帯なんかもイカれちゃってるのかも」

「いろいろとぐちゃぐちゃ?」

「うん。あのね」

女の子がぐっとそばにきた。

他人との距離感が物凄く近いコらしく、居心地の悪さに冷や汗が吹き出そうになる。

染み付いた劣等感のせいで、少し身を引く。

「ルナ、あなたのこと、ぐしゃぐしゃにしちゃったの」

オレは一瞬、この状況から逃れようとすることも忘れて、彼女を見た。

今、何と?

オレをぐしゃぐしゃにした。

とか言わなかったか?