恋口の切りかた

「何だ? あれからあの部屋を調べてやがったが──何かわかったのか?」

自分の部屋で極めて不機嫌かつ投げやりに尋ねた俺に、

「ああ、そのこともある」

宗助は頷いて、

「結論から言うと、あの部屋には何者かが立ち入ったような形跡は何一つとして見当たらなかった」

「あァ? 何だそりゃ!?」

俺はキレそうになった。

「そりゃ何にもわかってねえって言うんだろうがよ! お前まで祟りだ女の幽霊だと言う気か」

「まさか」

宗助はニコリともしない能面のような無表情で言った。

「無論、あのような真似、人の仕業だろう。幽霊が『出ていけ』と紙に書いて貼り付けるのもおかしな話だ。
俺が言っているのは──『しかし人の仕業にしては痕跡が無さ過ぎる』ということだ。

例えば円士郎様や冬馬様がアレを施そうとしても、そこには人が居たという痕跡が残る。しかしあの部屋にはそれがなかった。
そのような芸当は──例えば俺ならば可能だが」

「話が回りくどいんだよ。つまり?」

「つまり、素人のイタズラではない」

宗助の言葉に、俺はあんぐりと口を開ける。

素人のイタズラじゃねえって……あんな『去ね』だの『立ち入った者は呪われろ』だのと書き付けた無数の紙を天井に貼って回るなどという、ある意味精神的に病んだ真似を──何の玄人がやったと言うんだ?

結城家への嫌がらせ目的にしても、あんな普段人の立ち入らない部屋に貼ってどうする気だったのか──。

サッパリ意味不明だった。


あの部屋を出入り禁止にしたのが親父殿だとすると、親父殿は何か知っているということなのだろうか。

「いよいよ気になったら、江戸に文でも送って訊いてみるか」

そんな下らないことで手紙など書くのも馬鹿らしい気がしたが。

「とりあえず、開かずの間はいいとして──他に報告ってのは?」

俺の問いに、宗助は

「一つは人形斎について、もう一つは昨晩屋敷を訪れた佐野鳥英という女絵師の身元についてだ」

という言葉を寄越してきて、

「なに? 鳥英について……だと?」

待ちに待った報告にくっついてきた、予想外の人物の報告に俺は戸惑った。