恋口の切りかた


 【円】

俺自身が標的になることは覚悟していたが、さすがに肝試しの帰りに狙われるとは思っていなかった。

「貴様らが今夜出かけることや行き先を知っていた者は?」

あの後ぞろぞろと町奉行所に移動して、神崎はそんな質問をしてきた。

「まあ、肝試しに参加した者を除けば屋敷の者くらいかな。
ただし、俺たちの行き先について前もって知っておくのは無理だが」

「どういうことだ?」

「俺たちが行き先を決めたのが、出発する直前だからだ」

俺の話を聞いた神崎は、眉間に皺を刻んでうなった。

「あの仕掛けは、一朝一夕に仕掛けられるものとは思えんぞ。ならば犯人はいったいどうやってあの場所を知ったんだ?」

おいおい。

俺は苦笑する。

「そんなの簡単だろうが。俺たちが肝試しに向かうところを誰かに見られてたのさ。
町のどこに出かけていようが、武家屋敷の界隈に戻るにはあの道を通る必要がある。
俺たちが引き返してくるまでに設置して待ってりゃいい」

「貴様は馬鹿か? 商家の壁に穴まで空けてあったんだぞ? そんな短時間でできる仕掛けか」

「……馬鹿はあんただ」

俺は溜息を吐いた。

「あのなァ。なんで俺たちがあの場所を通るってわかってから全ての仕掛けを施す必要があるんだよ。
この場合、壁の穴やどんでん返しは前もって作ってあったと考えるのが自然だろうが」

「前もって……だと?」

「ああ。どんでん返しの仕掛けの上に狐の人形や屋台を設置するだけなら、芝居の舞台と同じ。短い時間でも十分用意できる。

おそらく……犯人は、ああいう仕掛けをあらかじめ町中至る所に作ってたんだろう。
標的に合わせて使う場所を選んでたってことだと思うぜ」

「──と言うことは、城下には探せば他にも仕掛けのある壁が──」

「あちこちにあるだろうな。夜が明けたら、あんたの部下を使って探してみろよ」

言いつつ、事件の捜査を任されている与力ならこのくらい自分で気づけよ、と思う。

この神崎という男、どうやら頭脳労働よりも先程のような状況での肉体労働のほうが得意なようだ。