恋口の切りかた

何っ! と叫んで、木刀を振りかざした神崎が穴から中に飛び込んで行き、

「今さら踏み込んだところで──もう遅い! 犯人はとうに逃げてしまっているさ」

人形を見下ろしたまま、鬼之介が悔しそうに言った。

「くそっ! もっと早く気づいていれば……!」



鬼之介の話によると、

狐の人形と屋台を、商家の壁と連結した戸板のようなものの上に乗せておき、提灯の火を消すと同時に戸板が持ち上がって、
くるりと壁の向こうに屋台や人形を収納する仕組みになっていたのだという。

お芝居の舞台でもよく使われている仕掛けだった。


「灯りが消えて真っ暗になると同時に仕掛けで屋台を収納してしまえば、一瞬で何もかもが消えたように見えるだろう」


確かに、以前私と円士郎が狐の屋台を目撃して、私が倒れてしまった場所でも、
屋台のすぐそばには商家の壁があった。



前に見た鬼之介の鎧と一緒で、完全な自動カラクリにその場の状況に応じた動きをさせるのは難しい。

そこで壁の向こうに潜んだ何者かが、人形を操って動かしていたということらしかった。


灯りの中に転がった狐の顔は、
人形だとわかって眺めると、表情を変えるための可動部がついた人形の顔に相異なかったけれど、

暗がりで、遠くから見ただけでは全然気がつかなかったし、

ついっと三日月の形に長く伸びた目や、赤い色がちろちろ覗いた口元はやっぱり不気味だった。


その作り物の手には、不思議な青白い光を放つ染料のようなものがべっとりと付着していて、それが鬼之介の言う「黄燐」というもののようだ。




その後は町方の同心たちがわんさかやって来て、

鬼女姿の与力は慌てて蝋燭を外し、髪だけ簡単に結ったりして──


こうして、

あの開かずの間の呪いなのか、私たちの肝試しはとんでもない形で幕を閉じたのだった。