恋口の切りかた

「脱いだぞ。何だってんだ」

円士郎が文句を言いながら、濡れた着物を道に放り上げ、
続いてザバリと音を立てて、下着姿になって真っ黒な水から上がってきた。

びしょ濡れの白い着物にはあちこちに藻が貼りついていて、これまた夜道で出くわしたら腰を抜かしそうな怪談じみた有様だった。

寝間着姿の神崎と言い、白い格好をした者が二人もいると何だか変な集団に見える。


「そこの二人に礼を言うのだな」

川から上がってきた円士郎に向かって、鬼之介は神崎と隼人を示してそう言った。

「あのまま動き回っていたら、貴様も今頃は怪死事件の被害者の仲間入りだ」

「どういうこった?」

「そこの狐に叩かれた貴様の着物の肩の部分」

と、鬼之介は商家のそばに転がった人形を眺めて目つきを険しくした。

「さっき暗闇で青白く光っていたぞ」

「なに!?」

「しかもあの大蒜(オオヒル*)のような臭いは……ボクが聞いた『黄燐』の特徴と一致する」

「ってことは……」

「たぶん、決まりだ」

鬼之介はずぶ濡れの円士郎に頷いた。


「月読の正体は『黄燐』だ。おそらく粉末状にして人形の手から塗りつけるという方法だ」


腰が抜けていた状態から復活したのか、鬼之介は普段どおりの歩みで、隼人たちが見下ろしているカラクリ人形に近づいて行きながら語った。


「黄燐というものはな、いずれ火打石に変わる発火器としても使用されることになると聞いた。
空気中で身につけていると、人体の熱に加えて衣服の擦れた熱などがあれば低い温度でも簡単に発火し、たちまち傷口から体内に吸収されて毒となる」

「うえっ!?」

円士郎の表情が凍った。

「だから水中で保存するのだと聞かされた。それで──」

「川に飛び込めって言ったのかよ」

円士郎は強ばった顔で隼人たちを見て、

「助かった。礼を言う」

と頭を下げた。



(*大蒜:にんにく。黄燐にはにんにくのような独特の臭いがあるのが特徴)