恋口の切りかた

「へえ? 俺にかよ、上等だ」

円士郎がそんなことを言って屋台に歩み寄ろうとして、

私は袖を引っ張って止めようとしたのだけれど、彼は「留玖は離れてろ」と言って私の手を振り解いて──


「おい、食うなよ」

隼人が腰の刀を抜きながら言い、神崎も木刀を構えた。

「は。得体の知れねえモンが入ってるかもしれない蕎麦なんざ、誰が食うかよ」

円士郎は鼻を鳴らし、刀に手をかけて屋台に近づいて行った。

「ふん、見た目は普通の蕎麦だな」

間近まで寄って、蕎麦を覗き込んだ円士郎はそう言い、

狐の顔をした店主をしげしげと眺めて、

「む? こいつは、やっぱり──」

何かを言いかけた時だった。


「貴様ら、ボクを置いていくなァッ」

すでに怪我は治っていたはずだけれど、刀を杖代わりにして、骨折していた時のようにへろへろした足取りで鬼之介が走り寄って来て、

円士郎の注意が一瞬そちらに逸れ──




ぽん、と

狐の顔の店主の白い手が動いて、円士郎の肩を叩いた。




円士郎がぎょっとした顔で、柳の木に手をついていた鬼之介のそばまで飛び下がって刀を抜き、


「この臭いは──」


鬼之介が息を呑んで、横の円士郎を見て、


「──川に飛び込めっ!」


と、叫んだ。


「なに……?」

川縁で柳のそばに立ったまま、円士郎は戸惑った様子を見せた。


「馬鹿者! 何をしている!」


鬼之介が切羽詰まったように怒鳴った。

「死ぬぞ! すぐに水中で着物を脱げ!」