恋口の切りかた

留玖は俺の着物の袖を握って歩きながら、
頭に蝋燭をつけた神崎を
理解しがたい生き物を見るかのような、また別の種類の怯えを含んだ目で見上げていた。


「しっかし問題だよなァ。ひとかどの侍──それも町方の与力なんかが、夜な夜な御奉行や御家老の陰口を叫びながら木刀振ってたなんてなァ」

「うぐッ」

ニヤニヤしながら言った俺のセリフを聞いて、神崎が滝のような汗を流しつつうめいた。

「こんなことが表沙汰になったら、処分は免れないだろうなァ」

「き……貴ッ様ァ! ふざけるな! 武士を脅迫する気か!」

腰に差した木刀に手をかけて神崎が怒鳴って、

「そっちこそふざけんな! アンタがこの俺の悪口を叫んでたことだって忘れてねえからな!」

俺もこの偉丈夫を睨みつけて、俺たちは視線で火花を散らし合った。


生暖かい風が吹いた。

ちょうど俺たちは、柳の木が立ち並ぶ川縁を歩いていた。

「そう言やこの辺りだったな、美女の幽霊が出るって話」

女のたおやかな腕のように、さわさわと手招きするかの如く風にしなる柳の枝葉を眺めて俺は呟いた。

「や……やめてよ」

留玖がぎゅっと、両手で俺の腕にしがみついて、



「──おい」



背後からかけられた声と共に
伸びてきた腕が、俺と留玖の肩に置かれたのはこの時だった。