恋口の切りかた

しかし──

俺は、神崎のような奴は嫌いではない。


「それで、結城家のお坊ちゃんがあそこで何をしていた?」

鬼でも射殺せるのではないかという双眸でこちらを睨みつける神崎に、

俺は涼しい顔で銀治郎の所から帰る途中で青白い炎を目撃したことを説明し──

「犯人がいたら、その場で叩き斬ってやろうかと駆けつけたというわけだ」

「ふむ、それは立派な心がけだ」

試しに言ってみたら、神崎は大真面目に賞賛した。


まあ、仮にあの場に犯人がいたら斬ってやろうと思ったのは事実だが。


ここで俺はニヤリとする。

「そうしたら──例の狐の蕎麦屋、俺も見たぜ」

同心と目明かしが息を呑んだ。

「なぜ、討ち取らなかったのだ!」

と、激怒する神崎帯刀。


おいおい。

町奉行の高津図書の話では、
その店で焼死者が蕎麦を食べているというだけで、何も犯人と決まったわけでもないだろうに。


「いや、それがな」と、俺は神妙な顔を作って

「斬ってやろうと思った瞬間、ふうっと、こう、
消えて何にもなくなっちまったんだな」

これ以上、こいつらを怖がらせてどうする、と思わなくもなかったが

怖がっている奴を見ると俺は……



無性にもっと怖がらせたくなる!



悪たれ坊主の頃の血が騒ぐというか。

案の定、

「ひいい、やっぱり化け狐の仕業だあ……」

同心や目明かしたちは腰を抜かして震え上がり、

「情けない声を出すな!」

青筋を浮かべて神崎が叱咤した。