恋口の切りかた

「俺は番頭の……」

「結城円士郎か?」

名乗りかけた俺を遮って、聞き覚えのある声が俺の名を言った。


見上げれば、銀治郎親分の所で会った──


「神崎帯刀?」


提灯の明かりに照らされて、
仏頂面でこちらを見下ろすあの若い与力の顔があった。


「なぜ貴様がここに……」と、神崎が顔をしかめて、


「おい。お前はまさか、同心の片瀬か?」

ちろちろと燃え続けている妖しい青白い火の周りにいた者から、そんな言葉が飛び出した。


暗くて見えないが、
体から青い炎を上げて、男が一人倒れている。

「片瀬!」
「しっかりしろ!」

騒ぎ出した提灯たちを眺めながら、俺はまた謎が浮上するのを感じた。


今夜の被害者は──渡世人ではないというのか。

たった今、貸元のところで白輝血と虎鶫の抗争について聞かされたばかりだというのに。



どういうことだ?



まだ息のあった町廻り同心の片瀬六造は、虹庵のところに運び込まれた。


気になった俺も、ついでに留玖を見てもらおうとついて行ったら、

「しかし神崎様もお気の毒にな」
「他の方々に、このようにいいように使われて」
「まあ、お若いから仕方がないとは言え……」
「あのご気性が周りのご不興をかっているとも聞くぞ」

道すがら、同心たちはそのようにヒソヒソと囁き交わし、何やら失笑を漏らしていた。

おやっと思う。

神崎という与力は、どうも奉行所内では浮いた存在のようだ。


さて、片瀬の火傷を見た虹庵は、

「この方も火傷自体はそう酷くないが──
例の火でやられたのなら、また助かるかどうか……」

そう言って厳しい顔をした。