恋口の切りかた

「お前なァ、農民を悪く言うなよ」

唇をかんでいる平司に、フンドシ一丁の漣太郎が言った。

「農民の子は大変なんだぞ? 知ってたか? 人買いに売り飛ばされたりするんだぜ?」


あ、おれがしゃべった話だ。


「……知っていますよ、そんなことくらい」

平司はあきれたように漣太郎を見た。

「農民を悪く言うつもりなどありません。当たり前でしょう。
彼らのおかげで私たち武士は米を食えるのですよ?」


当然のことだという弟の口調に、漣太郎は驚いたようだった。


「え? だってお前」

「それでも兄上は武士の子で、その子供は農民です! 私は、兄上にはもっと武士らしくしてほしいのです!」


二人の思っている「武士らしく」はたぶん、違うのだろう。



「お前の言ってること、わかんね」

漣太郎は、そう言ってそっぽを向いた。