恋口の切りかた

「いやあ、身投げでもしそうな顔で川を見下ろしてるから、何事かと思ったら──」


身投げ!?

私は自分の姿がこの人の目にそんな風に映ったのかと仰天して、


「おっと失敬、ご当人にとっちゃ笑い事じゃあなかったか。
円士郎様に嫌われたとあっちゃァ、そりゃ身投げでもしようかって一大事一大事!」

「み……身投げなんてしないよ……!」


言葉と裏腹に笑い転げ続ける遊水に、私は大慌てで言って、

本当に「顔から火が出そうなくらい」恥ずかしくなった。


うう、完全にからかわれてる……。


「姉上?」

声がかかって振り返ったら、
何やら小さな包みを抱えて戻ってきた冬馬の姿があった。

冬馬は、
大笑いする遊水と、その隣で頬を染めてあたふたしている私に
怪訝そうな目を向けながら太鼓橋を上ってくるところだった。


肩に手を置かれて見上げると、

「おつるぎ様、俺も幼い頃に帰る場所と人とを失いました。
村に帰りたいと仰ったあなたの思いも、辛いお気持ちも、俺にはわかります」

遊水は顔から笑いを消してそう言った。


私の呟きはやはり聞かれていた。


「何より俺も武士(もののふ)じゃない。おつるぎ様と同じでね」


遊水は私の肩に手を置いたまま、耳元に口を寄せて囁いた。

「だからあなたの境遇に関しては、俺は円士郎様よりもあなたを理解できる自信がある」

橋を行き交う人々の雑踏の中で、遊水ははっきりと言い切った。


「俺とあなたは似ている。
武家の水に疲れたら、いつでもこの金魚屋は相談に乗りますぜ」


そんな言葉を残して、遊水は私の肩から手を放し──


冬馬と入れ違いに去っていこうとして、






「それ」は、この時に起きた。