恋口の切りかた

私は身を固くする。


やっぱりあのとき──

村へ帰りたい

そうこぼしてしまった言葉を
聞かれてしまったのかな、と思って、

でも、

「いえね、ホラ、結城家の養女になるまではお百姓様のご身分だったとお聞きしてるもので」

そう言う遊水の態度からは、どうなのか判別できなかった。

「おつるぎ様が結城家に来られたのは──おいくつの時でしたかね?」

「……ちょうど十二になる年に」


十二、と金魚屋は呟いた。


目の前を、彼と同じような格好をした棒手振が通り過ぎて行った。


「馴染めるものですか?」

改めて問われると、
私は答えに詰まった。

「馴染めないでしょう」
と、遊水は決めつけるように言った。


そんなことない、と私は急いで言おうとして──


「馴染めるハズがない」

遊水が語気を強めて、断言した。

「俺たちみたいな者から見りゃ、武士の世界ってのはワケがわからない。
二本差しのお侍たちがこだわって、
それこそそのためになら命を簡単に投げ出して必死に守ろうとするもの──

『武士の誇り』ってやつは、

俺には──下らないものに見えることが多いんです」

私は、道場破りがうちに来た時に
似たようなことを考えたのを思い出した。

「おそらくこの感覚の違いは、俺たちには一生ついて回るもんでしょう。

三つ子の魂なんとやらじゃあねえですが、
人生の最初期──十になるまでに置かれた環境が違いすぎる」


円士郎たちと一緒に暮らしていて、いつも私がズレのように感じていたこと。

幼少期にどういう教えに基づいて育てられたかは、
私と円士郎たち結城家の人々との間に──

──いや、風佳も含めた武家社会の人たちとの間に

いつも溝のように横たわっている気がする。