恋口の切りかた

忙しく通りを行き交う人々の中で、

大通りの端に立っているその人の周りだけ、空気が静止しているように見えた。



男の人……かな?

お面で顔をすっぽり覆っているので
年齢も、顔もわからないけれど、
格好は町人風だった。



真っ白な狐のお面は、つり上がった目と真っ赤な口が不気味で……



お祭りで見かけるような張り子の面か、

距離があるのでよくわからないけれど、
もっと本格的な、陶器でできたお面かもしれない。



明るい春の昼日中、

私のほうを見ている狐のお面は──明らかに異質で奇怪だった。



私がぼう然と視線を送っていると、
やがてその人はふいっとどこへともなく立ち去ってしまった。


……なんだろう?


そう言えば、この近くで芝居の興行があると
しばらく前に円士郎が言っていた。

辺りには芝居の見物客目的で、大道芸の人たちも集まっている。

ちょうど今も、私のいる橋のたもとで軽業師が何やら見せ物を披露していた。



今の人も芸人さんか……芝居小屋の役者さんかな?



私は少し変に思いつつも、

この時はその狐のお面を、さして気に留めなかった。