恋口の切りかた

平司は端正な白い顔を紅潮させて怒っていた。


「しかも武士が人前でそのようなかっこうで! 母上がご覧になったら卒倒(そっとう)しますよ!」

「えー? お前も刀丸と似たようなこと言ってんな」


一方の漣太郎は、フンドシ一丁で平然としている。


「母上も着物を濡らして帰ったほうがうるせえだろ」

「ですから、そもそも──そんな遊びをやめろと言っているのです! 兄上は、いずれ結城家の当主となるお方なのですよ!」

「あァ? それと川で遊ぶのとは関係ねーだろ」

「そのように下々の者のような言葉でしゃべるのもおやめ下さいっ!
農民と川で魚とりとは──何を考えているのですか! ああ、情けない」

「オイ、待てよ」


これまで平司の言葉をめんどうくさそうに聞き流している様子だった漣太郎は、一変してじろりと自分の弟をにらみつけた。

「てめえ今何つった? なんで刀丸と遊ぶのが情けないんだ」

そこらの子供なら皆すくみ上がるその視線にも、弟の平司はまったくひるんだ様子を見せなかった。

「兄上は武士の子だからです。お前も、農民の子ならわきまえろ」

平司ににらまれて、おれは肩を落とした。

「……ごめんなさい」

「気にすんな、刀丸。謝ることなんかないぜ?」

「でも……レンちゃん……」


「無礼者! 漣太郎様と呼べ!」


おれを怒鳴りつけた平司を見て、ついに漣太郎がキレた。


「だまれ平司! てめえこそ、このオレの友達に無礼な物言いは許さねえ!」