恋口の切りかた

「一年だ、円士郎」と親父殿は言った。



「儂が江戸から戻った時に、留玖の口からお前の妻になりたいと言わせてみろ。

それができたら、お前の言う留玖との婚儀、考えてやっても良いぞ」



信じられない言葉に、俺は驚愕し、


「晴蔵殿!」


母上も仰天した様子で声を上げた。


「私は──留玖にはこの家の娘として、然るべき相手と家を見つけて嫁がせてやりたいと考えておりましたのに……!」


ニヤニヤ笑いを浮かべたままの親父殿を見て、母上は溜息をついた。

「留玖は──先程の様子ですと、自分がこの家の養女になったことに対して、恩義と引け目を感じている様子でした。

たとえ泣くほど嫌でも……円士郎に、妻になれと正面切って言われれば、嫌とは言えないでしょう」


うぐっ!?

俺はまたしても思いきり胸をえぐられて、くずおれそうになった。


母上も容赦ねえ……。



「だからこそ、だ」

親父殿は何だかおもしろがっているようだった。

「留玖は、結城家への恩義から、お前の妻になることを大それたことと考えている様子だったしな。

円士郎、お前から妻になれとは言うな。

留玖が自ら、恩義や引け目もかなぐり捨ててお前と一緒になりたいと思うほど、お前に惚れさせてみよ」


一度決めた婚儀を私情で覆そうと言うならば、お前一人のワガママではなく──せめて二人のワガママでなければ話にならんぞ、と親父殿は冷ややかに笑った。