恋口の切りかた

「誰だ!?」

誰何(すいか)の声がかかって、

私は泣きそうになるのを懸命にこらえながら「留玖です」と掠れた声で答えた。


隣の部屋からは少しの沈黙の後、

「聞いておったのか……ならば話が早い。入れ」

と父上の声がした。


そろそろと襖を開けて部屋に顔を出すと、父上と母上の視線が注がれて
私は小さくなった。

父上の顔をまともに見ることができない。


「留玖、正直に申せ。
お前は円士郎のことをどう思っている?」

父上が単刀直入に尋ねて、

その質問の声自体はとても優しいものだったけれど、


私は震えが止まらなかった。


私は、もう留玖を自分の妹だとは思うことができません──

円士郎の言葉が洞穴の谺(こだま)のように、何度も繰り返し蘇った。


「わ──私は、兄上だと思っています……!」


父上と母上の前で声を絞り出すと、
今度は我慢できなくて、ほっぺたを涙が伝い落ちていくのがわかった。


「ふむ? しかし、昨夜──」

納得できない様子で放たれた父上の言葉に、私はぞっとして、

「兄上と思っています! 円士郎様は私の兄上です……!」

無我夢中で繰り返した。


嫌だよ──

この優しい家族から……離れたくないよ……!

もう二度と、あんな思いをしたくない──


「お願いです! 私を結城家に置いて下さい!」


怖くて、悲しくて……


「どうか私を──父上と母上の娘でいさせて下さい……どうか!」


私は必死に訴えて、泣き崩れた。