恋口の切りかた

そんな風にイライラしているので、
さっきから魚に逃げられてばかりでまだ二、三匹しかとらえていない。

「またつかまえた!」

横では刀丸の嬉しそうな声がする。

「えへへ、十匹目~」

俺たちは今、
刀丸の住む村の近くにある川で魚とり勝負の真っ最中なのだが、
このままでは今日は俺の惨敗になりそうだった。

フンドシ一丁の俺と違って、刀丸はと言えば
いつもの汚い着物を着たまま、ひざの上まで水に浸かって魚をつかまえている。

濡れるから脱げばいいと思うのに、
刀丸は

人前で裸になるのは駄目だと親に言われている、
それにこれは母親が縫ってくれた大事な着物だ

と言って頑(かたく)なに嫌がった。

案の定、ずぶ濡れになっている刀丸を見て、大事な着物を濡らすのはいいのかよ、とか思わなくもなかったが……

まあ暑いからすぐに乾くだろう。

川縁(かわべり)の木にはアブラゼミがとまって、ジワジワとやかましい声で鳴いている。


「兄上!」

雑念を捨てて俺が勝負に専念しようとしていると、唐突に聞きなれた声が聞こえた。