恋口の切りかた

 
 【漣】

「くそ、あいつら……油断も隙もねえ!」

フンドシ(*)一丁で魚を追い回しながら、俺はイライラしていた。

性格の悪い俺が、身分に関係なくそこらの子供中に嫌われていたのと全く逆で、

性格の良い刀丸は、身分に関係なく子供の間では人気があった。

誰に対してもニコニコしていて優しいし、
さっきみたいに遊びに誘われれば、誰にも区別なく応じる。

それが俺には気にくわない。
刀丸が他の子供と遊ぶのは──なんかいやなのだ。


我ながら心のせまい人間だとは思うが。


だって、


俺にとって刀丸はたった一人の大切な友達なのに、

刀丸にとって俺は、たくさんいる友達の一人にすぎない──


俺にとって刀丸は特別なのに、

刀丸にとって俺はそうじゃない──


そんな現実を思い知らされるようで、



──なんかいやだ。



くそ、本当に我ながら心のせまいやつだ。



(*フンドシ:当時はまだ下帯と呼ばれており、この言葉は確立していない時期と言われるが、本編ではわかりやすく読んでいただくために使用)