恋口の切りかた

「どういう関係とは?」


伊羽は怪訝そうに問い返した。


「中は伊羽家に仕える私の部下だが」

「ん──まあそうだろうけどよ、部下って関係以外に、しゅうど……」

「その言葉、私の前で二度と口にするな」


明らかにこれまでと打って変わった口調で俺の言葉を遮り、伊羽は嫌悪をあらわにした。


「吐き気がする」



──やっぱりな。


こいつが、幼い頃にここに閉じこめられて──このジジイや兄貴の玩具にされていた──


それがどういう意味かは、さすがに俺にもわかる。


虐待の記憶は、相当深い傷として心に刻まれているのだろう。

何しろ、自分を虐げた者を皆殺しにしようとするほどだ。


俺でさえ、うちのクソジジイのおかげで衆道嫌いになったワケだし。


考えてみれば、五年前のこいつと親父殿の会話からも
伊羽が江戸から女を連れ帰って屋敷に囲うほどの女好きだということは窺い知れた。



つまり、鬼之介の予想とは異なり、

伊羽と中の間には実際、衆道関係などあるワケがない。



「いや~悪ィ、てっきり……」

俺が説明すると、伊羽は不機嫌そうに「下世話な想像をしないでいただきたいですな」と吐き捨てた。




とにかく屋敷に帰ったら、親父殿には問い質したいことが山のようにある。

そんなことを考えながら座敷牢を後にして、階段を登り、蔵の外に出ようとして──


「ああ、そうそう円士郎殿。忘れていたが、気をつけられよ」


背後から、伊羽が俺にそんな声をかけた。


「──あァ?」


蔵の外に一歩足を踏み出しながら、俺が伊羽を振り返ろうとした瞬間──

目の前に、



真横からぎらつく刃が突き出された。