恋口の切りかた

「あーあー、ようくわかった」


ヤマタノオロチが出るとは思わなかったが、おかげでこいつが「どういう人間か」は嫌と言うほど思い知ることができた。


「仕っ方ねえな、もう」


こいつは家族を手にかけたことを、おそらく悔いてはいないだろう。

だが、そのことで自己嫌悪の塊だし、
復讐だと割り切ることもできず

酷く傷ついているように見えた。


それって、つまり──

こいつの現実はこんな滅茶苦茶なことになってんのに

厄介なことにこいつ、根は悪い奴じゃねえってことだろ。


「いいぜ」


俺は腹をくくった。



「こんなん見せられて、手を組んでやる奴なんか俺くらいしかいねーだろうし。

感謝しな、この結城円士郎様はこの先、あんたの味方になってやるよ」



目でも丸くしているのか、覆面頭巾越しでは窺い知ることもできないが、


俺の宣言にはたっぷりの沈黙が返ってきた。



「ただし、あんたは何つうか……もう少し自分を大事にしろよ」


家族に復讐し、腐敗した敵対勢力を一掃し──

それらは家督を狙ったものでもなければ、出世のためでもない。


こいつは敵対者は許さないと言いながら、決して私利私欲を目的に他人を陥れるような真似はしていない。


「あんたが地獄に堕ちて当然だ何だと開き直って、自分を国のために使い捨てるのは勝手だが、

それと一蓮托生なんざ俺はまっぴらだ。

捨て鉢になってる奴と組む気はねえからな」


「捨て鉢になっているつもりはないですよ」


黙っていた伊羽はそう言って、円士郎殿はお優しいですねと呟いた。


「そうだ、俺は優しいんだ、わかってねえ奴が多いけどな」


主に結城家の奉公人たちを思い描きつつ俺が胸を張ると、伊羽は苦笑した。


「やはり──私のように闇の中にいる人間にとって貴殿は、明るい光のようなもの。

円士郎殿の周りに自然と人が集まるのがよくわかる……」


伊羽の言葉は、少しだけ寂しそうに響いた。