恋口の切りかた

俺は、このとんでもない告白の端々から伝わってきた──

この伊羽青文という男の意外な素顔と、目の前の檻の中にある現実とを比べた。


「あんたは、十年前にこの国を改易から救ったんだよな。

そして、五年前も──親父と組んで城内の腐敗を一掃した」


「滑稽だと笑いますか、こんな男が国を憂うのは」


伊羽は自虐的に言った。


「笑わねえよ、国を憂うその心が

紛れもない──
嘘偽りもない──

あんたの本心なんだろ」


「──っ貴殿は……」


断定的に言い放った俺を見て、伊羽は何か狼狽したように黙った。



俺が伊羽の言葉から汲み取ったのは、

こいつは冷酷で計算高いし、
まあ、あちこち歪みまくっているようだが、

それだけの人間ではない

ということだ。


「ったく! 初めにいきなり謝ったり、引き返せないだの何だの言ってた意味はコレかよ。

何てモン見せてくれやがる……!」

「……先に貴殿がそう望んだことだがな、円士郎殿」

「藪蛇どころじゃねえ、大蛇の上を行くヤマタノオロチが出るなんざ誰も思ってなかったよ!」


五年前には、化け物的な表面しか目にすることができなかったが、
俺がここで今目の当たりにしたのは、伊羽青文の悲しいほど人間的な内面だ。

冷徹に他人を切り捨てるだけの人間と思い込んでいた俺にとっては、それが何より衝撃的だった。