恋口の切りかた






檻の中には畳が敷かれていて、





そして──







──人がいた。








「な──!? 誰だこいつ!?」

俺はぎょっとして声を上げた。



そこにいたのは、齢五十代を越えていると思われる年経た男だった。


口から垂らした涎が、炎にてらてらと輝いた。


真っ白なひげも髪も伸び放題、

身にまとった着物ははだけ、

痩せこけて頬の肉は削げ落ち、

落ち窪んだその双眸からは完全に正気が失せている。




「この男か? こいつはこの伊羽家の前当主だ」




伊羽青文は氷のように冷ややかにそう答えた。



「前当主……だと?」

からからに干上がった喉で、俺は辛うじて問い返した。


「そうだ、つまり──この青文の父上様さ」

覆面家老はそう吐き捨てて、



目を見開いた俺を振り返った。



「世間の噂は『真実』なのだよ、円士郎殿。

五年前の伊羽家の不幸──それは全て私がやったことだ。もっとも……


父上は病死ではなくこのとおり、まだ生きているのだがね」