恋口の切りかた

扉の先には、

真っ暗な怪物の口にも似た、

一条の光明もない闇がぽっかりと現れた。


木で作られた階段が下へと延びている。


伊羽青文が抱えた黒い固まりそのもののような穴の奥へ、

俺は彼に続いて足を踏み入れた。



「円士郎殿は、五年前に私が家督を継いだ経緯をどのように理解しておられますか?」



ギシギシ軋む階段を降りながら、伊羽は俺に背中でそう訊いた。



「あんたが家督を継ぐ少し前、伊羽家の前当主──あんたの父親が突然病死した。
それでも、あんたには三人の兄がいたから、本来家督を継ぐことはなかったハズだが……

その三人の兄までもが、突然立て続けに事故死──というか怪死。

相次いだ伊羽家の不幸のおかげで、めでたくあんたに家督が回ってきた。

──と、俺はそう聞いてる」


親父殿から聞かされた話を思い出しながら俺は答えた。



「その『あまりにも私に都合の良すぎる』事実を、貴殿はどう捉えているのかな?」



まあ、怪しすぎる話ではある。

普通に考えれば、そんな偶然で家督を手にするなどということがあるのか、という内容だ。


当然、世間では陰謀説が──

ただ一人災難をその身に受けず、わずか二十歳で名家の全てと城代家老の地位とをまんまと手中に収めた伊羽青文が家族四人を謀殺したのではないかという疑惑が──

まことしやかに囁かれている。



「噂で言われてるとおり、おかしな話ではあると思うね。
偶然にしちゃ出来過ぎだ」



しかし、五年が経過した現在に至るまで証拠は何一つ出ていないのだ。



「確かに、あんたなら──」

「──平然と父と兄三人を殺して、この伊羽家を乗っ取りかねない、と仰るか?」


俺は苦笑した。


「何しろ俺は、既にあんたのそんな一面を知ってるからな」