恋口の切りかた

伊羽青文は蔵の一番奥で、灯りを手に俺を待っていた。

彼は無言で足下を照らす。


錠前のついた大きな扉が浮かび上がった。



床に──扉?


この蔵には地下があるのか?



「……どうした?」

伊羽が、いつまで経っても何も発することなく佇んでいるので、俺は彼の顔を見た。

──と言っても、覆面の奥は闇に閉ざされて伺い知ることができなかったが。


覆面家老は、次の行動を起こすのを少しためらっているように見えた。


「この先に貴殿と進めば……」


ややあって、彼は口を開いた。


「引き返すことはできない。

私は──

今日、貴殿が現れなければ──」


何を言おうとしたのか、くぐもった声は言い淀み、



「許されよ、円士郎殿」



一言、そう謝罪の言葉をよこしてきた。



「────?」



どういう意味なのか、俺が考えを巡らせる時間もなく──


伊羽は自らの首に紐で掛けていた鍵を取り出して、



その地下への扉を開けた。