恋口の切りかた

覆面家老についてくるように言われ、俺が案内されたのは伊羽家の敷地の端に立つ蔵だった。


ここに何があるのかと俺は訝しむ。

宗助は供として待たせてあるので、今ここにいないとは言え、
何かあればすぐに駆けつけてくるだろうが……


万が一に備えて、手の中にある大刀の鞘の感触を確かめた。

結城家は伊羽家よりも格上の家だ。
訪問時も刀を刀番に預ける必要はない。

今は礼儀で腰から外し、右に下げて持っているものの、
右手でも左手でも抜刀可能、両手で刀を扱える俺には何の制約にもならない。


「円士郎殿は、私が『どんな人間なのか』を知りたいと仰ったな」

薄暗い蔵の中に足を踏み入れ、伊羽青文は入り口に立った俺を振り返った。

「これより、それをお見せしよう」


意味がわからない俺にそう告げて、
伊羽は蝋燭を灯し、とっとと蔵の奥へと歩き始める。

入り口に残った中に促され、俺は首を一捻りしてその後に続き──


──このときは、先に待ち受けるおぞましい現実を想像すらできなかった。


確かに、
彼の語ったとおりに、



伊羽青文が、どんな人間なのか?



何が、

あの夜目にした得体の知れない化け物のような男を作り上げたのか──?



俺はここで、城代家老の抱える秘密を知ることになる。

ひょっとするとそれは、知らないほうが良いことだったのかもしれないが。



考えてみれば俺は、

留玖や、この伊羽青文や──


そして、ずっと後になって知ることになる冬馬の過去──


闇を抱えた周囲の人間たちと比べると、
いかに感謝すべき幸福な幼少期を送ったのだろうかと思う。