恋口の切りかた

「そうか、円士郎殿と中は幼なじみだったかな」

伊羽はそう言って、襖の向こうに顔を見せるように声をかけた。

子供の頃周囲から嫌われまくっていた俺にとって
幼なじみ、と呼ぶほどの繋がりがあったのは留玖くらいのもので

源治郎とは喧嘩勝負をしたくらいの記憶しかないのだが……。



襖が開き──


「お久しぶりです、円士郎様」


そう言って頭を下げた俺と同い年の少年の姿に、俺はあんぐり口を開けた。


「お前……本当にあの源治郎か!?」

「元服して、今は名を宮川中と申します」


記憶の中の源治郎は丸々太って小山のような体をそびやかした子供で、
同年代の中では一番でかかったハズだが──


開いた襖の脇に鎮座していたのは、すらりとした細身の若い侍だった。


くるくる巻いたクセっ毛が鬼之介と同じで、兄弟だと一発でわかる。
さすがに目の周りに隈はないが。


「幼き頃は円士郎様がどのようなご身分の方かよく知りもせず、大変ご無礼を致しました」


宮川中はそう言って屈託ない笑顔を見せた。

その表情の中に、ようやく俺は幼い源治郎の面影を見いだすことができた。


「無礼も何も、ボコボコにしてやったのは俺のほうだけどな」

俺がニヤッとして言うと、「そうでしたねえ」と中は照れて、

「でも今は、そう簡単には負けませんよ」

とやんわりした笑いを浮かべながら言った。

「へえ、じゃあ後で久しぶりに勝負するか?」

俺はそう返して、


それから、

昔と変わらず、聞く者を和ませるようなのんびりした喋り方をする中と、
あの鬼之介とを頭の中で比べてみた。


「性格は全然似てねえよな」

「はい?」

「いや、お前の兄貴──鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進から、よろしくと伝言だ」

「兄上にお会いになったのですか?」


中は破顔して「あれは楽しい人でしょう」と無邪気に言った。


……やっぱり似てない兄弟だと思った。