恋口の切りかた

覆面家老はそれからやや腑に落ちない様子で、

「五年前……私もそれなりに、評価に値するものをお見せしたかと思っていましたがね」

と言った。


「ああ、確かにな」

俺は素直に頷く。

「あんたの、はかりごとの手腕ってものを垣間見るには十分だったよ。

けどな、子供の俺にとっては、あの親父とあんたに
ただただ圧倒されただけだった。

実際にあんたがどんな人間なのかなんざ、あの状況で推し量れるワケねえだろが」


ふふ、なるほど、と伊羽は納得したように首肯した。

「正直に言いますね」

「回りくどいのは嫌いだっつったろ」


俺の様子を見てどこか楽しそうに低い笑いを漏らして、
それから伊羽は襖の向こうに声をかけた。

「中、円士郎殿と蔵に参る。人払いを致せ」

──アタル? 源治郎か?

俺は、肩越しに襖を振り返る。


実は座敷に通されてから家老が現れるまで、俺はこの部屋をざっと調べておいた。


伊羽が声をかけた襖の向こう、そこはいわゆる「武者隠し」と呼ばれる小部屋で、

手練れの者を潜ませておき、
来客に主人が襲われたときや
あるいは不意打ちで来客を襲うとき、
いつでも部屋に踏み込めるようにするための設備だ。

武家の屋敷では別段珍しいものでもなく、
忍返しを設置していない結城家にもさすがにこれはある。


伊羽が現れた時、横のこの小部屋にも何者かが待機に入ったのは、
衣擦れの音で俺も気がついていた。


「は、かしこまりました」


襖の奥から届いた声は、
声変わりで低く変化した男のもので、記憶の中にある源治郎の声とは大きくかけ離れたものに聞こえた。