恋口の切りかた

「全く、こちらの気遣いを簡単に無駄にする方だ」

伊羽家老は苦笑気味に低く言って、

「用向きを聞きましょうか」

俺の態度を見て観念したように、再び大きく嘆息した。


こいつは今、俺のことを奔放と評したが、軽率とは言わなかった。

──ふむ。

「何か考えがあってここに参られたのでしょう」

「ああ、まあな」

こいつが俺に目をつけた五年前から、
俺への評価は変わっていない、ということか。

世間では相当悪い噂が流れていたハズだが。


座敷の暗さでは、覆面の奥の目は隠されて見えない。



「──あんたは俺の何を知ってる?」



俺は尋ねた。


「俺の何を利用したくて、俺と昵懇にしたいと言った? 家名か?」

「随分と平然と、ご自身が利用されるなどと仰るのですね」

「重要なのは互いに利用価値があるかどうか、だろうが」


家老の頭巾の中からは、うめきのような──低い笑い声が漏れてきた。


「では、こちらも忌憚なく申し上げましょう。
当然、結城の家名は利用価値とすれば十分すぎる魅力的なもの。しかし」

「しかし?」

「私はそれと同時に結城円士郎殿個人に価値を見出して、昵懇にしたいと申し上げた」


その俺への評価は──。


「五年前のあの事件だけで、あんたはそう判断したってのか?」

「私にはあれで十分だった」

「俺には十分じゃねえ」

「ほう?」