恋口の切りかた

伊羽邸は、結城家と比べても見劣りしない門構えの
白壁の塀に囲まれた大きな屋敷だった。


一瞬、宗助が塀の上に目をやったので、俺もつられて視線を向けると、

先の鋭く尖った木製の柵が巡らせてあった。


「忍返し(*)か……」


うちの塀にはないんだが──

侵入したければしてみろ、迎え撃ってやる、
という結城家の方針からだと親父殿が言ってたっけな。


俺は興味が湧いて、宗助に尋ねた。

「あれって、やっぱりお前らにとっては面倒なモンなのか?」

「いや、全く。
ただの夜盗などの類に対しては有効なのかもしれませんが、
俺からしてみればむしろつかまることのできるとっかかりが多くて、侵入の際には助かりますね」


──さいですか。


ま、宗助たちのような忍にはそうでも、

俺みたいに塀を乗り越えて屋敷を抜け出す場合には、あんな邪魔なモノないに越したことはねえけどな。



不気味に黙して他者を拒絶するかのような、

忍返しの並んだ塀を見上げて



さて、虎穴に入らずんば虎児を得ずかな、と俺は思った。

奇しくも今年は寅年だ。
あまり関係ないけど。



もっともこの先は虎穴と呼ぶより、

さしずめ狐狸の棲む狸穴というところだろうか……。



(*忍返し:外からの侵入を防ぐために塀の上などに設置されたもので、現代で言うならば有刺鉄線のような役割の防犯装置)