俺を見上げてくる留玖に向かって微笑んだ。

「エン……?」

留玖が不思議そうに俺の名を呟いた。


宗助が忍として留玖よりも俺の身を優先するというならば、

俺自身が留玖を守ればいい。



とは言え、



無論、先程の虹庵とのやりとりで思い知らされたように、

留玖は強い。

俺に対処できるような事態であれば、それは彼女自身が俺よりも上手く対処できる可能性のほうが高かった。


俺が、彼女の身を守る必要などないのかもしれない。



だとしても、



俺は留玖のことを守ってやりたかった。


身の危険とか、そういうものとはまた別の部分でも──

彼女を守れる人間になりたかった。




そのためにも、強くなりたい。

武芸はもちろん、いずれ結城家を背負う当主として。


あの親父殿や、そして──いつかまみえたあの不気味な城代家老のように。

大人として、強かに生きる力が必要だと思った。


そのためには多分、この国だとか政治だとか……
これまで子供の身分に甘んじて視界の外に押しやってきたものにも、目を向けなければならないのだろう。


あの都築という国家老から改易で国を失ったと聞かされたときから、俺の胸には一つの思いがあった。