恋口の切りかた

「門下になるのは良いけどよ」

俺は鬼之助をぎろりと睨んだ。

「鏡神流の名で、道場破りをして金を巻き上げるなんてセコい真似はやめとけよ」

「フッ、その約束はできかねるな!」

「なに胸張って言ってんだてめえは!」

俺が思わずどつくと、鬼之助は「痛いぞお!?」と悲鳴を上げて布団の上に倒れ込んだ。

「き、貴様! ボクは怪我人だぞ!」

「やかましい!
カラクリの腕試しなら、俺がいくらでも相手になってやるよ。これで道場破りなんてやる理由はもうねえだろ」

「理由ならまだある!」

鬼之助はよろよろと身を起こした。

「金だ、金! カラクリを作るのには金がかかるんだ。

結城と違って宮川家の俸禄は三十俵二人扶持。ぬくぬく育った貴様らには想像もできんかもしれんが、道場経営で何とか生活している困窮状況だ。

そもそも武家の次男に自由にできる金などないし、ボクは家を出て貧乏長屋暮らしだ。発明を続けるには先立つものが必要なのだよ!」

扶持・蔵米取りで三十俵二人扶持と言えば、結城家のような知行地取り石高に換算すれば五十石、現金で言えば十七両二分か(*)。

高いとは言えないが──それって、生活に困窮するほどなのか?

俺は少し興味を持った。
だがまあ、とりあえずその話は置いておいて……

「ふうん、だったらよ」

俺はニヤリとした。


「宮川鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進、お前、俺の家来になれよ」


(*十七両二分:仮に一両=十万円で計算すると、現代の金額で年収175万円。ただし、現代のように一般家庭の一ヶ月の生活費が数十万円に上るような時代ではない。例えば現代の物価が四倍とするならば、年収700万円の家庭に相当し、それプラス道場の副収入があることになる。このため、円士郎は生活に困窮するほどかと疑問に感じたようだが……)